「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」
「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」
白根山の麓でな、赤土といって着物の赤色を染める土がいっぺい出る所があったんだ。その下の川を「赤川」って呼んでいたんだと。
昔、昔、その川をはさんで、狸の国と狐の国がいつも争っていたんだと。
狸の国は羽根尾にあって土の中にお城があったんだと。殿様は赤土で染めた陣羽織を着て兵隊は、赤土で染めたちゃんちゃんこを着ていたんだと。
ちゃんちゃんこには化けたり出来る神通力があったんだと。
狐の国は石津村の上にあって大きな岩屋にお城があり、殿様は金ピカの陣羽織を着ていたんだと、兵隊は黄色の木の葉で染めたちゃんちゃんこを着ていたんだと。
それがお互い川をはさんで、狸はポンポコ、ポンポコ腹鼓。狐はコンコン鳴き叫び気勢を張り上げていたんだと。
狐も狸もちょびすけがいてな、川を越しちゃ狸はもろこし盗みに、狐は狸の陣地の兎を盗みに夜な夜ないくんだと。だけど見張り番につかまったら大変だ、大切なちゃんちゃんこを取られちまうんだと。
ある時、狸の殿様がお忍びで家来を五人ばかり連れて万座の湯に湯治に行ったんだと。それが狐の殿様の耳に入ったもんで、狐の殿様は今だとばかり羽根尾のお城を攻めたんだと。たちまち殿様のいない狸の城は降参してしまって、狐に宝物や食物を全部取られちゃったんだと。湯治をしていた狸の殿様は、峠を逃げて信濃の狸の殿様に助けを求めたんだと、「不意打ちとは卑怯なり。」と信濃の狸の殿様は軍隊を連れて狐のお城を攻めに赤川の原に進軍して来たんだと。「来るなら、来い。」と狐の群は石津の大石に陣を張り待ち構えたんだと。いよいよ戦が始まっただと。狐の鉄砲の玉はすすきの穂。狸の鉄砲の玉はどんぐりで互いに筒に入れた空気鉄砲。シューシュー、ポンポン大合戦。どちらも互角と思えたが、草津や長野原の狸群が加勢にきた、とうとう狸群が勝っただと、狐の殿様は、車坂の峠を越えて信濃の大狐の殿様の所へ逃げたんだと。
赤川の原では狸が勝った勝ったと腹鼓を叩いて酒盛りをしたんだと。
今でも、満月になると狸の腹鼓が聞こえてくるんだと。それからな、狐が陣地にした大石は狐石と呼ばれるようになったんだと。
「さぁ、狐も狸も寝ただんべぇ。おめえもそろそろ布団にはいれ。」