愛郷---上信高原民話集(四)

ほととぎすの兄弟


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」

 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」

 昔なぁ、浅間山が大噴火をする前になぁ、ちっせい噴火を幾度も幾度も繰り返していたんだと。それだから、灰が空からしょっちゅう降って麓の村はな、米も麦も粟もそれに山の木の実も草の実もぜんぜん取れなくなってしまったんだと、人間も食うに大変だったが山の生き物だって大変だっただなぁ。

 袋倉村の山にほととぎすの兄弟がやっぱり飢えをしのいで暮らしていたんだと。親鳥は、子に食わせるに精一杯で自分は食わずに飢えて死んじまったんだと。兄弟は毎日力を合わせて一生懸命餌をさがし、何とか生き延びていたんだと。

 ある日、弟がほどいもをみつけたんだと、ほどいもちゅうものは今の長いものこんだ。とってもちっちぇぃいもだったが、弟は、それを持って帰って兄さんに食わせただと、兄さんは、うまいうまいとたちまちほどいもたいらげたと、けんどもよけい呼び水をしたように腹が減り「弟は、俺にこんなにうまいいもを食わせるんだから、あいつはかげでもっとうまい物をうんと食っているんだろう。」と兄は弟の喉を突き刺したんだと。ところが弟の喉からはほどいもの皮しか出てこなかっただと。弟は喉を突っかれて死んでしまっただ。兄は、「弟の喉を突き切った。」「ホッチョノノドヲツッキッタ。」と悔やんで泣いた。毎日八千八百回も悔やんで泣き続けたんだと、今も朝早くから遅くまで「ホツチョノノドヲツッキッタ。」「ホツチョノノドヲツッキッタ。」と悲しく鳴いているんだと。

 それからなぁ、ほととぎすは、あんまり鳴くのに時間を取られて子育てが出来なくなったんで、こっそりとモズの巣に卵を産んでモズに子育てを頼むようになったんだと。モズは、自分の子と思ってほととぎすの子も育てるから大変だ。それで蛙や虫なんかとっちゃぁ山のあっちの木の枝こっちの木の枝と突き刺してためこんでおくようになったんだと。

 「あした鳥に負けねえように起きて、声聞いてみろ。」

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