5年目で6回目の開講となる今年度のインタープリター・リーダー養成講座は、自然体験活動推進協議会(CONE)事務局を通して、小学校長期自然体験活動指導者養成研修(文部科学省委託事業)としての認定を受けることになった。それで、これまでの3日間21時間であった本講座に、学校に関する4時間の専門講座を加え、さらに文部科学省のカリキュラムに内容や体制を整えると4日間26時間以上という、とても長い講座となった。また、国の委託事業であるためにエビデンスに基づく見積書やセンシティブな会計処理が要求され、これまでの数倍となった事務作業に、事務局(私)は正直、戸惑いを隠せなかった。
CONE学校支援事業全体会議
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しかし、この試練はチャンスである。私達自然案内人が長年夢見ていた少年期における健全な自然教育、野外教育、冒険教育を、いよいよ国が推進しようとしているのである。全く同じものが合わさるよりも、少し体質の異なったものが一緒になった方が、変化に強い、新しい共生システムを生む可能性がある。私は、連日栄養ドリンク漬けで取り組んだ(本当)。自画自賛して大変申し訳ないのだが、37名の受講生はその努力の賜物である。
元々、今年度の受講生募集の見込みとしては、地域でインタープリターとして活動しうる人材を開拓しつくした感があり、大きな宣伝費を投入しないことには同様の人数を集めることができないだろうと考えていた。その経費捻出は難しいので、コスト削減のために外部講師から内部講師へ、より無理を言える(安い講師料で依頼できる)方に講師を変更し依頼した。そのために私が講師に復活したり小崎トレーナーに無理を言ってお願いしたのであるが、おおむね講座のコーディネートが済んた段階になって、国の委託事業を兼ねて実施できることになり、広告費や広報活動費を使わせていただけることになった。
宣伝チラシ
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宣伝チラシを大量に印刷し新聞折込に入れたり、軽井沢にまで出向きチラシを置かせていただくなどの広報活動は、費用対効果は合わないと見ていたので、これまで踏み切れなかったことだった。その、例年以上の広報活動分で10名ほどを獲得でき、さらに嬬恋会館という立地で5名ほどを獲得できたのではないかと見ている。そして国が進めている小学校長期自然体験活動指導者養成研修であるということで、10名ほどが獲得できたであろう。それだけ引けば昨年とちょうど同じくらいの人数になる。
この小学校長期自然体験活動指導者養成研修を終えた指導者が、実際に活動することになる子ども農山漁村交流プロジェクトが実際に実施運用されることになると、この嬬恋村周辺にも多くの子ども達が来るのだろうし、その経済効果は大きいと考えられる。何しろ会員の活躍の場はとても広がることになる。6月25日−26日のCONE学校支援事業全体研修会では、30年以上自然体験活動で飯を食っている先輩が、こう言った。
子ども達に自然体験を!
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「これまで、本当にいいスタッフが私のところで育ってくれた。どこに出しても恥ずかしくない名インタープリターだった。しかし、自然体験活動では年間200万円しか給料は払ってやれなかった。結婚と同時に、家族のためにみんな出て行ってしまった。…しかし、このプロジェクトが成功し実際に運用されれば、彼らに350万〜400万円を支払ってやれることができるんだ。それだけ払えれば、農山村なら充分に食べていけるんだ。だから、このプロジェクトは成功させなくちゃならない。このチャンスを逃してはならない」と。
全くその通り。強い感銘を受けたのは事実であるが、本当は、一週間もの自然体験活動を学校行事としてまとめてやらなくては自然に触れ合わせることができない現代社会に問題があることを忘れてはならない。おじいちゃんの家で毎日30分間の畑の手伝いや、学校帰りに毎日30分間の原っぱや森への寄り道をして育っていたら、年間の累積時間では数週間分に匹敵し、年間を通して生き物たちの生死や物質循環サイクルも見て育つことになり、地球生命と共に生きるライフスタイル…という感覚は自然に体得できているはずなのである。
嬬恋村三原、初代村長宅
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また、豪雨のためにほとんど実施できなかった【講座6.上州三原インタープリターション】であったが、実際には、あの地域をインタープリテーションする場合、37名を一緒に行うのは少々無理があると感じた。山間集落の生活道は狭く、参加者を集めてお話しすることも厳しかった。それをやり遂げるのもインタープリターとしての器量であるが、その集落に合った人数を案内するべきとした場合、1パーティー15人までが望ましいと考える。
であれば、全国に120万人の小学校5年生がいて、それを指導するのに10万人の指導者を育成しようとしてる国の施策はなんとしても推進実現したい。120万人:10万人で12:1なのであるが、今の指導者輩出ペースだと最終的に2万人しか育たない可能性があり、それだと60:1となってしまい、今回の講座6.のような山村集落を案内する程度のごく安全なインタープリテーションですら、子ども達には危険で実施できなくなってしまう。他のもので自然体験をさせれば良いのであろうが、私達は地域の自然だけではなく、歴史伝統生活文化をも伝えるインタープリターでなのである。
講座3.自然の理解 講師:赤木道紘
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当会はもちろん、子ども農山漁村交流プロジェクトと小学校長期自然体験活動に賛同し推進している団体であり、プロジェクトが実施運用された際にこの地域で下支えをしていく団体である。しかし、学校行事として何百人の生徒と金が一気に動く事業のため…ではなく、当地のインタープリターとして小学校5年生の指導も充分に対応できる人材を育成輩出することをコツコツやる…ことでこのプロジェクトに寄与していくのだという、本来の目的と役割を再認識すべきである。そうでないと、本来の自然の営みに不釣合いな、まとまった一週間の自然体験活動をお世話するためのインタープリターを輩出することになり、そのような人たちが地域の実情に即したインタープリテーションなどできやしないと思うからである。つまりは、小学校を受け入れるために地域住民が一夜漬けで蕎麦打ちを練習し当日体験させるというのとなんら変わりは無い。その付け焼刃の指導者住民が子ども達に蕎麦を語れるだろうか?とても無理だ。
講座7.対象となる参加者を知る、
ネイチャーゲーム(2時間) 講師:小崎昭一
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今回、事業を監修してくださった小崎トレーナーは、私が2003年秋にネイチャーゲーム・リーダーを取得した時の講師である。(その時の主任講師は昨年まで監修してくださった国田トレーナーである。)小崎トレーナーは前橋市教育委員会という立場で長年、自然体験と学校教育をずっと見つめ続けてきた方である。この講座を迎える途中段階で、私は「講座の内容をもっと学校教育に即した内容に、教科に置き換える内容にすべきなのではないだろうか?」と不安になり意見を伺ったのだが、小崎トレーナーは「そうやって慣れない学校教育や教科科目に無理やり合わしてコンセプトを失うよりも、これまで通りきちんと地域をインタープリテーションできる人材を育成したほうが、最終的にこのプロジェクトに資することになります。」と仰った。迷いなく当会イズムで実施して本当に良かったと思う。背中を後押ししてくださった小崎トレーナーに深く感謝している。
今回は、当会の講師陣も改めて受けなおしている方もいらっしゃった状況もあり、受講生のレベルはこれまでで最も高かったと言える。しかし私としては、この中から、どれだけの人数が当会の運営に関わっていきたいと思ってくれるかが勝負どころだ。…そこまでいかないとしても、当会イズムを感じ取り、自ら進んでインタープリターと名乗ろうとする人は何人出てくるのだろうか。
◆地域に流れる意識や地域ならではのもの・ことを訪問者に対して紹介するのが地域案内人としてのインタープリター。
◆人間の言葉ではないものでメッセージを放っている自然の声をお伝えするのが自然解説者としてのインタープリター。
◆地球生命の未来のために個々が責任ある行動をとるために「気づかせる」のが環境教育者としてのインタープリター。
「会に入っているから」とか、「そういう風に周りが言うので」などと言っている人は、私ははっきり言ってインタープリターにはなってほしくは無いと思う。そういう、人任せで無責任な気持ちでは、上に列記したようなことで人の心を揺さぶることは出来はしないからだ。
時間押し気味の中、閉講式もバタバタしていたため、満足のいくスピーチができなかったので、ここで最後のスピーチを。
説明をする事業担当者(木村)
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『・・・この講座で皆さんは、さまざまなインタープリテーションスタイル、そしてさまざまなアプローチ手法を見てきました。もう、自分だったらどんな風にするのがベストなのか、どうしたら自分の個性を表現することができるのかを見つけることができたと思います。
「まだ、私は勉強中だから…」なんて言わないで、ぜひ今日からインタープリターとして名乗ってほしい。今は、まだあなたは理想からかけ離れた小さなブリキでしょうが、毎日理想のメッキを塗りたくっていれば、いつかは、まあるい理想の球になることができます。99.9%純金の黄金球にだってなれるでしょう。そしてそれは、自らを安全なところに避難させてしまっていては、いつまでもメッキを塗ることはできないのです。それは、生命が次のステップに進むにはどうしてきたのか…で、お話しましたね?
皆さんの今の熱い心、その心をいつまでも大切にして、そしてその心の声に素直になって、今日からインタープリターと名乗ってください。皆さんが私達と共に歩んでいただけることを期待して、この講座を閉講します。長い間、お疲れ様でした。』
嬬恋村インタープリター会 事務局長 赤木道紘