「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」
「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」
昔はなぁ、田代村に仁平おんじいという人がいてなぁ、ジャガタラ薯で作った片栗粉を売って近郷近在を歩く商いをしていたんだと。仁平おんじいは商いをしちやぁ、片栗粉のうめえ食い方も教え歩いていたんだと。
熱いお湯を片栗粉にかけて黒砂糖を人れてかき混ぜて食ういも熱湯とか、そは粉と混ぜてホオロクで焼くそば焼きとか、せんべえ焼きとか教えてくれたんだと。
仁平おんじいは商いでいろいろな村をあるいちやぁ、気の合った衆のところに泊めてもらいその村の昔話や行事や風習を聞いたり話したりするのが楽しみだったんだと。
仁平おんじいは商いの合間に村の墓地の石塔の字を読んだり石仏やお寺、お宮にも興味があっていろいろ見て回ったんだと。
村の衆の中には、変わった事をしている変人に思われて馬鹿仁平、あほ仁平なんて陰口を叩かれていたんだと。
まぁ、そんな事は知ってか知らずか仁平おんじいは、ひょうひょうと歩き商いをしていたんだと。
仁平おんじいは焦げて黒光りした薯の粉の箱から一升枡と一合枡で真っ白く光る様な薯の粉を計り山盛りにして「そっそっそっそらおまけだ」と売ってくれるんだと。
仁平おんじいの泊まる家の子は木枯らしが吹くと「またあのおんじい来るかな。」と楽しみに待っているんだと。
仁平おんじいが泊まると囲炉裏の火を囲み、家中で頬を赤くして暖まり、いも熱湯を食べながら仁平おんじいの話を聞くんだと。
仁平おんじいは物知りで本当に話がおもしろいんだと。得意は商売柄薯の話ついでに屁の話がついて回るんだ。
仁平おんじいは心ない人がお地蔵さんを盗んだり、歴史のある物が壊されたりするのを「そっそっそっそりゃいけねえこんだ。」といつも話の最後に言っていたんだと。
仁平おんじいから何十年も過ぎて村の衆がふるさとの歴史を見なおそうとする気持ちが高まって来た時、村の衆は貴重な物か盗まれたり壊されたりしている事に始めて気がついたんだと。
心ある村の衆の働きで石仏もお地蔵さんもだぶ戻ったり新築されて来たんだと。
今になってやっと仁平おんじいがたどった道を村の衆がたどり始めているんだと。
「陽気が良くなったから、観音さん数えて湯の丸でも遊びに連れていくべえか。元気に遊んでぐっすり寝ろやぁ。」