愛郷---上信高原民話集(十八)

でえらん坊


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」

 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」

 昔、昔、遠い昔にそれはそれはそれはでっけえでぇらん坊という大男がいたんだと。

 なんせでっかくて、四阿山をひとまたぎで越えられるぐれえでっかかったんだと。

 でぇらん坊は、国中に幾入もいてなぁ。そのでっかさを神様から見込まれて国中に山を作ってくれと頼まれたんだと。

 ここのでぇらん坊はまめだったんで、そこらじゅうにでっけえ山からちいせえ山を、いっぺえ作ったんだと。

 でぇらん坊が歩くから、ついでに足跡で湖もいっぺえ出来たんだと。

 でぇらん坊は腹が減るとなぁ。浅間山の火口に鍋を掛けて木でも草でも熊でも鹿でも、てあたりしだいなんだって放りこんでグツグツ煮て食うんだと。湯気は雲を突き破って天までつっ立つし、吹きっこぼれは山をかけ下って麓まで熱のほこりを巻き上げるんだと。

 でぇらん坊は、せっせと働いてたいげえの山を作り終わったんだと。雨の日も働いたもんで風邪をひいたんだと。

 でぇらん坊がくしゃみをすると、麓のむらの百姓家の障子や雨戸がすっとぶ程の風が吹くんだと。

 足が寒いもんで浅間山の火口に足を出して、寝たんだと。気持ちが良いもんでいびきをかいて寝たんだと。これがまたすげえいびきで、天まで響き長野や前橋まで聞こえるくれえだったんだと。

 それから、でぇらん坊は寝ながらたまに屁をしてるんだと。その屁がものすげえ音で「プッキン」とそりゃあもう九州から北海道まで響くってくれえでっけえ音なんだと。

 寝ぼけて浅間山の火口をけっとばすと灰が一万尺まで巻上がり、上州も信州も灰かぶりになるんだと。

 でぇらん坊はあれからずうっと寝こんで山めになったんだと。その山姿が遠くから見ると、仏様が寝てるように見えるもんで昔は寝仏山と村の衆から呼ばれてきたんだと。

 今の黒斑山の事だ。

 でぇらん坊は今でもなぁ、いびきをかいたり屁をしったりして村の衆をびっくりさせる事があるんだと。

 「寒くなって来たんで、風邪ひかねえように早く、おんばあとねるべぇやあ。」


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