愛郷---上信高原民話集(二十二)

馬鹿につける薬もくそもねえ


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」

 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」

 昔、昔、三原村に三人の因業じじいたちがいたんだと、まあ三人ともよく似たもんで、「俺は、三原村で一番金持ちでえれぇ。」とてんでに思い込んでいてなぁ。欲は深えし絶対自分の損になるような事はしねえ、えれえ天狗で人を見下していたんだと。

 三原村の真ん中の泉屋の前が三つ又になっていて、けっこう人の往来がはげしかったんだと、けど昔の道は巾が狭くて荷車ひとつ通るのがやっとぐれえの巾だったんでお互いがかち合うと、どっちかがよけなければすんなり行き違いが出来なかったんだと。

 まあその日に限ってどういう訳か、湯窪道から因業じじいの市兵衛が馬にかぼちゃ積んで荷車を引いて来たんだと。天神道から因業じじいの正作がうんこ担いで来たんだと。  鎌原道から因業じじいの茂作がじゃがいもを牛に積んで来たんだと。それが丁度泉屋の前でかち合ってしまったんだと。

 誰かが道を開けてよけなけりゃあ、どっちも通れねえけんど「おめえ、よけろ、俺が先に来たんだ。」とてんでにいって、まあみごとな因業じじいたちで絶対道をゆずらねえんだと。

 日が高く昇って寺子屋へ行く子供達も田んぼへ行く百姓も商いに行く商人も、道が開かんねえもんで、泉屋のせどを回って通ったんだと。

 お昼になって、昼飯食いに寺子屋の子供達も百姓も家に帰ろうと泉屋の所まで来ると、まだ因業じじいたちが頑張っていたんだと。

 まあまああきれて誰も止める者はいなかったんだと。

 夕方になって、口じやあだめだと因業じじいの茂作が牛からじやかいもを降ろして市兵衛と正作にぶっつけたんだと。「なにお。」と、因業じじいの市兵衛が、荷車からかぼちぁを降ろして茂作と正作にぶっつけたんだと。

 「なにお。」と因業じしいの正作がため桶からくそを市兵衛と茂作にぶちまけたんだと。

 通りかかった村の衆は、馬鹿につける薬もねえしくそもねえと言って、のちのちまでも話の種になったんだと。

 「今夜の晩飯は茂作のじゃかいもと市兵衛のかぼちゃにするべえ、こりゃあうめえべなぁ。」


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