愛郷---上信高原民話集(十一)

寅猫親分と雀たち


 「なぁ、おんじい、なぁ、おんばあ、そんつぎの話はどうしただぁ。」

 「あぁ、そんじゃぁつぎの話をしてやんべぇ。」

 昔、昔、大前村の北村に寅という猫の親分がいたんだと。

 寅猫親分には子分が二十四もいて、大戸の猫八親分に負けないくらい、近郷近在の村猫はもちろん村犬からさえもおそれられていたんだと。

 なにしろずうていが犬ぐれいでっかくて、寅猫親分がうなるとたいげぇの猫はすくんでしまうんだと。おおぐれいでずる賢い猫親分は、子分どもが盗り方を忘れねぇように、自分たちが砦にしているこんぴら山の崖の入り口に盗り方の掟を書いておくんだと。

・・・いろいろ書いた最後に

 子分たちも寅猫親分を恐れていたんだと。

 春がきてなぁ、山で鳥のひなかかえる頃、寅猫親分が「やわらかい鳥のひなか食いてぇ、毎日二十匹づつ盗ってこい」と、子分に命令したんだと。子分の中にはあんまりひなを盗っちやぁかわいそうだと思うのもいたが、なんせ寅猫親分がおっかねぇもんで、命令のままにひなを盗りまくっていたんだと。

 北村のかに沢には、春なのにひなの鳴く声も聞けぇなくなったんだと。

「ひでぇ事をしやがる」とすずめの親たちが相談したんだと。知恵をしぼりあって「これでいくべぇ」とすずめの親たちは、一斉に舞たち馬のシッポの毛をいっぺい抜いて、編んでウサギの罠みていなひっくくりの輪をいっぺい作り、こんぴら山に向かったんだと。

 夜中、描たちが寝たのを待って、すずめたちは崖の入り口から猫が通る岸の道筋全部に大きい輪、小さい輪をいっぺい仕掛けたんだと。それから雀たちは、静かにこんぴら山の裏手にまわり一斉にチュチュン、チュチュンとくちばしで描を突っき攻撃をしたんだと。

 ふいをくらってあわてた寅猫親分と子分たちは一目散に崖を下りようとしたんだと。

 そうしたら仕掛けた輪っかに、首だの足だのしっぽだのがおもしれぇように引っ掛かり、みんな崖のあちこちにぶらさがってしまったんだと。ギャァギャァ、ニャァニャァ三日三晩ぶるさがり助けを呼んだが、だぁれも助けてくれなかったんだと。それで次から次に死んでいったんだと。最後まで暴れていた寅猫親分はすずめたちに目をほじくられ、腹を裂かれて死んだんたと。

 話を聞いた大戸の猫八親分はびびって嬬恋村には手を出さなかったんだと。

 すずめたちは、それから安心してひなを育てたんだと。

「もうすずめも寝たんべぇ、おめえも寝ろやぁ。」


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